ひきこもりの絶望から脱出できた理由
―今ひきこもりの君へおくる踏み出す勇気
発達障害カウンセラー・吉濱ツトムさんが向き合い、絶望から脱出できた実例を紹介!
■一歩一歩進めていく〝スモールステップ〟
[ひきこもりからの脱却:吉濱セッション]
Cさんとの個人セッションを行った後、僕はCさんは軽度のアスペルガー症候群を中心とした隠れ発達障害と判断しました(僕は医師ではないので、最終的には医師に判断を委ねています)。
Cさんには、まず「正社員」や「終身雇用」にこだわる考えを変えてもらうため、「正社員」および「終身雇用」のデメリットを書き出してもらいました。たとえば「満員電車に乗らなければならない」、「時間通りの就業時間が窮屈」、「嫌な上司がいても我慢しなければならない」など。
これは自分の頭の中にあった物事の本質の部分を列挙することで、物事を客観的に見られるようにするトレーニング法です。
この方法は、Cさんがこだわっていた「正社員」が本当に自分に適しているのかどうかを考え、「自分を俯瞰で見る」というメリットもあります。つまり「メタ認知」です。
僕はさらに2パターンの働き方を提案しました。
ひとつはアルバイトか派遣社員からはじめ、身体を社会に慣れさせ、将来的に正社員を目指していくこと。いきなり理想を叶かなえようとするのではなく、スモールステップで積み上げていくイメージです。
そしてもうひとつは自営業をはじめること。そのために英語とコンピュータプログラミングを勉強することを勧めました。
それでもまだCさんは「正社員」へのこだわりが強く残っていましたから、僕はしつこく繰り返しました。
「派遣社員はスタートさせましたか?」
「まだです」
翌月も翌月も、その翌月もまた聞いてみます。
「で、派遣社員は?」
「……まだです」
一歩一歩進めていく〝スモールステップ〟=「まずは派遣社員から」という意味を、まっとうに理解するまでに半年を要しました。
時間が過ぎるだけでなんら状況が変わっていないという状態を、本人に気づいてもらうには、「第三者」が介入し、伴走者として指摘してあげるべきなのです。そうでないと本人はなかなか自覚に至らないものなのです。こうしてようやくCさんは派遣社員として社会との関わりを持つようになりました。
仕事に慣れてきた頃、プログラミングの勉強とプログラミングに必要となる英語の勉強をはじめ、「副業」で収入を得られる準備に取りかかりました。今はネット時代、自宅にいても仕事はできます。
僕は今後の日本では自営業が有利になる側面がふんだんに出てくると考えています。
Cさんのひきこもり期間は14年、年齢は39歳になっていましたが、「自営」というキーワードに未来への光が見えたようです。
Cさんは自宅の部屋の壁に「もう39歳×」、「まだ39歳◎」と書いた手作りのボードを貼りました。
やる気になってきたCさんですが、僕はダメ押しで「自営業の利点」を書き出してもらいました。
「自分のペースで仕事ができる」、「自分で時間の配分を決められる」、「仕事量を決められる」、「休みたい時に休める」など。
これも自分で考えさせることで、自分の生活の具体的なイメージにつなげていく効果があり、目的を達成するためのよい方法です。
以上を踏まえ、「派遣社員としての勤務」、「勉強の時間」、「趣味の時間」を組み立て、その上で「トークンエコノミー法」というものを用いました。
トークンエコノミー法とは、一日の予定をこなしていく度たびに、スケジュール表に○をつけたり、シールを貼ったりして、自分の行動が達成できていることを〝目で確認する〟ことを指します。
増えていく○印やシールを見る度にそれが脳にインプットされ、自分がよい方向へと導かれていっているのだ、と自らを客観的に見ることができるのです。
Cさんとの個人セッションの期間は2年間でした。
彼は41歳から新社会人として新たなスタートを切りました。
そして現在、開業に向けて勉強に励んでいます。
KEYWORDS:
『今ひきこもりの君へおくる 踏み出す勇気』
著者:吉濱 ツトム
年齢は関係ありません。
「ひきこもり」の改善はいつからでも間に合います。
今日からすぐにできるのです。
2018年内閣府の調査で40歳から64歳までの「ひきこもり」が、61万3000人。もしも彼らを支える親たちが「無職」になったら…。今、世間で不安視されているのが、「7040(ななまるよんまる)」問題。定年退職した70代の親が40代無職の我が子の世話をし、共倒れするリスクのことである。今や、その流れは「8050(はちまるごーまる)」問題にまでスライドされた。
では、どうすればいいのか?
著者の吉濱ツトム氏は、元ひきこもりで、自らのアスペルガーを克服し立ち直った発達障害カウンセラー。2000人を超える個人セッションを行った氏は、こう語る。
そもそも、なぜ「ひきこもり」となってしまったのでしょうか。
自分がダメ人間だから? 甘えているから? はたまた親のしつけが悪かったから?
いいえ、違います。その考えはいったん捨ててください。ひきこもりの多くは「発達障害」と関係しています。
ひきこもり者を治療するという発想を捨て、今の「生きづらさ」を回避し、自らの「長所」でカバーする。本書は、ひきこもりで苦しむ本人とご家族のみなさんといっしょに社会への小さな第一歩を確実に踏み出せる方法を考えわかりやすく解説します。
さあ、今すぐにはじめていきましょう。